STAGE 5
点を足す曲線
楕円曲線と有理点の足し算
🎯 ミッション
楕円曲線 y²=x³+ax+b の上で、2つの有理点を通る直線から3つ目の有理点が作れる理由(3つの交点の x 座標の和=傾きの2乗)を理解し、点の足し算 P+Q を計算できるようになろう。
未達成

ねこ博士
ここから旅の後半だ。最初の主役は楕円曲線。a と b を整数として、y²=x³+ax+b という式で表される曲線のことだ。名前に「楕円」とつくけれど、楕円(だ円)とは形がまったく違う。楕円の周の長さを計算する研究の中から生まれた式なので、この名前が残っているんだ。

うさ美
x³ があるので、STAGE1 の最後に出てきた「3次の曲線」の仲間ですね。どんな形なんですか?

ねこ博士
a と b によって、ひとつながりの曲線になったり、卵のような輪と曲線の2つに分かれたりする。どれも x 軸を鏡にして上下対称だ。y² の式だから、(x, y) が曲線の上にあれば (x, −y) も曲線の上にある。動かして形を見てごらん。
楕円曲線の形。a と b を動かすと形が変わる。どれも x 軸について上下対称。ただし、4a³+27b²=0 になる組(a=−3, b=2 など)では、曲線が自分自身と交わったり、とがった点ができたりする。そういうものは楕円曲線に含めない

うさ美
輪と曲線に分かれるのが不思議です。それで、この曲線のどこが大事なんですか?

ねこ博士
STAGE1 と同じく、有理点(座標が両方とも分数で書ける点)を探すんだ。例として y²=x³+17 を使おう。x=−2 なら x³+17=−8+17=9=3² だから、(−2, 3) は有理点だ。ほかにも整数の点が見つかるかな?

うさ美
x=−1 なら −1+17=16=4² で (−1, 4)。x=2 なら 8+17=25=5² で (2, 5)。x=4 なら 64+17=81=9² で (4, 9)。それと、上下対称なので (−2, −3) なども全部そうです。

ねこ博士
STAGE1 では、円の上の有理点1つから直線を引いて、もう1つの有理点を作った。円は2次だから、直線との交点は2つだった。楕円曲線は3次だから、直線との交点は3つある。そこで今度は、2つの有理点を通る直線を引く。(−2, 3) と (−1, 4) を通る直線の式は?

うさ美
傾きは (4−3)÷(−1−(−2))=1 で、x=−2 のとき y=3 だから y=x+5 です。これを y²=x³+17 に入れると、(x+5)²=x³+17、x²+10x+25=x³+17。移項して x³−x²−10x−8=0。3次方程式です。

ねこ博士
この3次方程式の解が、3つの交点の x 座標だ。2つは −2 と −1 だと分かっている。ここで使える事実がある。x³ の係数が 1 の3次式が、x₁, x₂, x₃ を解にもつなら、(x−x₁)(x−x₂)(x−x₃) と因数分解できる。これを展開して、x² の係数を見てごらん。

うさ美
(x−x₁)(x−x₂)=x²−(x₁+x₂)x+x₁x₂ に (x−x₃) を掛けると、x² の項は −x₃x² と −(x₁+x₂)x² なので、x² の係数は −(x₁+x₂+x₃) です。いまの式 x³−x²−10x−8 では x² の係数が −1 なので、x₁+x₂+x₃=1。−2+(−1)+x₃=1 から x₃=4。y=x+5 に入れて y=9。(4, 9) です! さっき見つけた点が、直線から出てきました。

ねこ博士
この計算を一般の場合でやってみよう。曲線 y²=x³+ax+b と、傾き m の直線 y=mx+c を連立すると、(mx+c)²=x³+ax+b。移項すると x³ の係数は 1、x² の係数は −m² になる。

うさ美
ということは、x₁+x₂+x₃=m²、つまり x₃=m²−x₁−x₂。2つの点が有理点なら、傾き m は分数どうしの割り算なので有理数で、x₃ も有理数になります。y₃=mx₃+c も有理数です。2つの有理点を通る直線は、必ず3つ目の有理点を通る、ということですか?

ねこ博士
そう。STAGE1 で「3次の曲線では残りの交点が2つあって、有理数とは限らない」と言ったね。2つの有理点から始めれば、残りは1つだけで、それは必ず有理数になる。数学者はこれを使って、曲線の上の点に足し算を決めた。
曲線の上の点 P と Q を通る直線が、曲線と交わる3つ目の点を R とする
R を x 軸について折り返した点(y の符号を変えた点)を P+Q と決める
計算式:傾き m=(y₂−y₁)/(x₂−x₁) のとき、x₃=m²−x₁−x₂、y₃=m(x₁−x₃)−y₁ が P+Q
P=Q のときは接線を使う。接線の傾きは m=(3x₁²+a)/(2y₁)(微分という道具で求まる式。ここでは結果だけ使う)

うさ美
(−2, 3)+(−1, 4) は、3つ目の点 (4, 9) を折り返して (4, −9) ですね。でも、なぜわざわざ折り返すんですか? (4, 9) のままのほうが簡単です。

ねこ博士
いい質問だね。折り返さない決め方だと、普通の足し算がもつ性質が崩れてしまうんだ。折り返して決めると、順番を入れ替えても同じ(P+Q=Q+P)、どこから足しても同じ((P+Q)+S=P+(Q+S))という、数の足し算と同じ規則が全部成り立つ。0 の役目をするのは、曲線のはるか上(無限の遠く)にあると考える特別な点 O だ。P とその折り返しを結ぶと縦の直線になって、3つ目の交点は無限の遠くの O になる。だから P と折り返しを足すと O、つまり 0 になる。折り返しは「−P」の役をしているんだ。
点の足し算シミュレータ(曲線 y²=x³+17)。P と Q を選ぶと、2点を通る直線(P=Q なら接線)と、3つ目の交点 R、それを折り返した P+Q を描く。座標は分数のまま正確に計算する。「P+Q を新しい P にする」を繰り返すと、分母と分子がどんどん大きくなっていく

うさ美
接線の式で (−2, 3)+(−2, 3) を計算してみます。m=(3×(−2)²+0)/(2×3)=12/6=2。x₃=2²−(−2)−(−2)=8、y₃=2×(−2−8)−3=−23。(8, −23) です。8³+17=512+17=529=23² なので、確かに曲線の上にあります。足し算をくり返せば、有理点はいくらでも作れるんですか?

ねこ博士
この曲線ではそうだね。足すたびに、分母と分子の桁はどんどん増えていく。そして 1922年、イギリスのモーデルが、どの楕円曲線でも有理点はすべて、有限個の点から、この足し算をくり返して作れることを証明した。有理点がまったく増えない曲線もある。たとえば、n=3 のフェルマーの式 x³+y³=1 は、うまく変数を取りかえると楕円曲線 y²=x³−432 に作り直せる。オイラーの n=3 の証明は、この楕円曲線の有理点が、座標に0を含む自明なもの(に対応する点)しかないことを示したのと同じことなんだ。

うさ美
フェルマーの式が楕円曲線になるんですか! n=5 や n=7 でも、同じように楕円曲線に作り直せるんですか?

ねこ博士
n=5 以上では、xⁿ+yⁿ=1 をそのまま楕円曲線に作り直すことはできない。けれど、まったく別の使い方がある。もし解があったら、それを材料にして1本の楕円曲線を組み立てるんだ。それは STAGE8 で話そう。その前に、楕円曲線にはもう1つの顔がある。STAGE4 で予告した指紋だ。次のステージでは、楕円曲線を mod p で見て、点を数える。
【このステージの成果】
楕円曲線:y²=x³+ax+b(ただし 4a³+27b²≠0)。x 軸について上下対称。名前は楕円の周の長さの研究に由来
3次式 (x−x₁)(x−x₂)(x−x₃) の x² の係数は −(x₁+x₂+x₃)
傾き m の直線と曲線の3交点:x₁+x₂+x₃=m² → 2つの有理点を通る直線は、3つ目の有理点を通る
足し算:3つ目の交点を折り返した点が P+Q。例 (−2, 3)+(−1, 4)=(4, −9)(y²=x³+17)。0 の役は無限の遠くの点 O
モーデルの定理(1922年):有理点はすべて、有限個の点から足し算で作れる
確認クイズ
Q1. 楕円曲線の上の2つの有理点を通る直線について、正しいものは?
正解! 3つの交点の x 座標の和は傾きの2乗 m² に等しい。m も既知の2つの x 座標も有理数なので、3つ目の x 座標 x₃=m²−x₁−x₂ も有理数になる。
Q2. y²=x³+17 で、P=(−2, 3)、Q=(−1, 4) のとき、P+Q は?
正解! 直線 y=x+5 は3つ目の点 (4, 9) で曲線と交わる。それを x 軸について折り返した (4, −9) が P+Q。
Q3. 3次式 x³−5x²+… が x=1, 2, x₃ を解にもつとき、x₃ は?
正解! x² の係数は −(x₁+x₂+x₃)。−5=−(1+2+x₃) から x₃=2。重なった解でもかまわない(接線のときがそうなる)。