📜 フェルマーの最終定理、証明への道
STAGE 4 ― 時計の算術 ―
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STAGE 4

時計の算術

mod の計算と、その限界
🎯 ミッション
a≡b (mod p) の意味と、足し算・掛け算が余りだけで計算できる理由を理解しよう。x³+y³=z³ を mod 7 で調べ、mod の計算だけではフェルマーの最終定理を証明しきれない理由を説明できれば合格。
未達成
ねこ博士
前のステージの最後に予告した時計の算術を始めよう。時計で 10時の5時間後は何時かな?
うさ美
3時です。10+5=15 ですが、時計は 12 で一回りするので、15 から 12 を引いて 3。15 を 12 で割った余りが 3、ということですね。
ねこ博士
そう。時計は、数を「12 で割った余り」だけで見ている。これを一般にして、整数をある数 p で割った余りだけで計算することを、「mod p で計算する」という。mod は英語の modulo(〜を法として)の略だ。2つの整数 a と b を p で割った余りが等しいとき、a≡b (mod p) と書いて、「a と b は mod p で合同」と読む。15≡3 (mod 12) という具合だ。余りが等しいということは、差 a−b が p の倍数だということでもある。
うさ美
負の数はどうなりますか? −1 を 12 で割った余りというのが、よく分かりません。
ねこ博士
差が p の倍数かどうかで考えればいい。−1−11=−12 は 12 の倍数だから、−1≡11 (mod 12)。時計で言えば、0時の1時間前は 11時だね。mod p の世界には、0 から p−1 までの p 個の数しかないと考えて、どんな整数もそのどれかと合同になる。
mod 7 の時計。0〜6 の7つの数が円周に並ぶ。整数を 7 で割った余りの位置に置くと、10 は 3 に、−1 は 6 に重なる(10≡3、−1≡6 (mod 7))
うさ美
足し算は、時計を進めるだけなので余りで計算できそうです。掛け算も、余りだけで計算していいんですか? たとえば 17×23 を 5 で割った余りを、17≡2 と 23≡3 から 2×3=6≡1 と計算していいのか……実際に計算すると、17×23=391=5×78+1 で、余り 1。合っています。
ねこ博士
なぜ合うのかも説明できるよ。17=5×3+2、23=5×4+3 と書いて、掛け算を展開してごらん。
うさ美
(5×3+2)(5×4+3)=5×3×5×4+5×3×3+2×5×4+2×3。最後の 2×3 以外の項は、どれも 5 を掛けた形なので 5 の倍数です。だから余りに効くのは 2×3 だけ。余りどうしを掛ければいい、ということですね。
ねこ博士
その通り。足し算・引き算・掛け算は、途中で何度余りに直しても答えは変わらない。じつは、この道具はもう使っているんだ。
うさ美
あ、STAGE2 で「奇数の2乗を 4 で割ると 1 余る」と計算しました。あれは mod 4 の計算です。奇数≡1 か 3 (mod 4) で、1²=1、3²=9≡1。偶数は 0 か 2 で、0²=0、2²=4≡0。どんな平方数も mod 4 で 0 か 1 になります。
ねこ博士
それを使うと、こんなことが言える。4 で割って 3 余る数は、2つの平方数の和にならない。理由は?
うさ美
平方数は mod 4 で 0 か 1 なので、2つ足すと 0, 1, 2 のどれかで、3 にはなれません。だから 3, 7, 11, 15, … は、2つの平方数の和になりません。調べなくても、無限にある数を一度に「ない」と言えるんですね。
ねこ博士
それが mod の力だ。式を mod p で見て、余りの世界で解がなければ、本物の整数の世界にも解はない。整数の解があれば、その余りが余りの世界の解になるはずだからね。では、フェルマーの式にも使ってみよう。n=3、mod 7 で、まず 0〜6 の3乗を 7 で割った余りを全部求めてごらん。
うさ美
0³=0、1³=1、2³=8≡1、3³=27≡6、4³=64≡1、5³=125≡6、6³=216≡6。3乗の余りは 0, 1, 6 の3種類しかありません。
ねこ博士
x, y, z がどれも 7 の倍数でないとしたら、x³+y³≡z³ (mod 7) は成り立つかな?
うさ美
7 の倍数でなければ、3乗は 1 か 6 です。x³+y³ は 1+1=2、1+6=7≡0、6+6=12≡5 のどれかで、1 にも 6 にもなりません。だから成り立ちません。……x³+y³=z³ に解があったとしたら、x, y, z のどれかは 7 の倍数でなければいけない、ということですか?
ねこ博士
そう。ソフィー・ジェルマンが調べたのは、まさにこういう性質だった。mod で調べると、解の性質がいろいろ分かる。では、mod をうまく選べば「解は1つもない」まで言えるかというと、そうはいかない。xⁿ+yⁿ≡zⁿ (mod p) には、どんな p でも必ず解があるんだ。たとえば n が奇数なら、1ⁿ+(−1)ⁿ=0ⁿ は普通の整数の式としてちゃんと成り立つ。
うさ美
1−1=0 ですね。整数の式として正しいので、どの mod p で見ても正しい。でも、−1 は自然数ではないし、0 も自然数ではありません。……余りの世界では、−1 は p−1 と同じ数になってしまうし、0 と p の倍数の区別もつきません。だから mod p では、「自然数の解」と「−1 や 0 を使った解」を見分けられない、ということですか?
ねこ博士
そういうことだ。さらに、1916年にシューアという数学者が、p が十分大きければ x, y, z のどれも p の倍数でない解まで必ずあることを示した。mod 7 では「どれかは 7 の倍数」と言えたけれど、大きな p では、それすら言えなくなる。たとえば n=3、p=19 なら、どれも 19 の倍数でない解が 324 組もある。たとえば 1³+4³=65=19×3+8、2³=8 だから、1³+4³≡2³ (mod 19) だ。
xⁿ+yⁿ≡zⁿ (mod p) の解を数えるツール。表は 1〜p−1 の n 乗を p で割った余り。下の数は、x, y, z がどれも p の倍数でない(1〜p−1 の)組のうち、式をみたすものの個数。n=3 なら p=7, 13 で 0 個だが、p=19 や 31 では解が見つかる
うさ美
本物の整数では 1+64=65 で、8 とは全然違うのに、余りの世界では成り立ってしまうんですね。mod で調べるだけでは、フェルマーの最終定理は証明できない……。それなら、mod は後半の旅で何の役に立つんですか?
ねこ博士
使い方を変えるんだ。「解があるかないか」を調べるのではなく、ある式を、素数 p ごとに mod p で見て、解が何個あるかを数える。p=2, 3, 5, 7, 11, … と数えていくと、式ごとに数の列ができる。この列が、その式の指紋のような役割を果たす。後半で主役になるのは、この指紋なんだ。
うさ美
p が素数でないといけない理由はあるんですか?
ねこ博士
mod p で p が素数だと、余りの世界でも割り算ができる。たとえば mod 7 では 3×5=15≡1 だから、「1÷3」の答えは 5 だと考えられる。0 以外のどの数にも、掛けると 1 になる相手がいるんだ。mod 12 だと、2 に何を掛けても偶数で、1 にはならない。p が素数のとき、0〜p−1 の p 個の数だけで、普通の数と同じように四則計算ができる小さな世界になる。次のステージでは、いよいよ後半の主役の1つ、楕円曲線が登場する。
【このステージの成果】 mod p の計算:整数を p で割った余りだけで計算する。a≡b (mod p) ⇔ a と b の余りが等しい ⇔ a−b が p の倍数 足し算・引き算・掛け算は、途中で余りに直しても答えが変わらない(p の倍数の項は余りに効かない) 平方数は mod 4 で 0 か 1 → 4 で割って 3 余る数は2つの平方数の和にならない。余りの世界で解がなければ、整数にも解はない 3乗の余りは mod 7 で 0, 1, 6 だけ → x³+y³=z³ の解があれば、x, y, z のどれかは 7 の倍数 ただし xⁿ+yⁿ≡zⁿ (mod p) には必ず解がある(1ⁿ+(−1)ⁿ=0ⁿ、大きな p ではシューアの定理)。mod だけでは証明できない 後半の使い方:式の解を素数 p ごとに mod p で数え、その数の列を式の「指紋」にする。p が素数なら余りの世界で割り算もできる

確認クイズ

Q1. 17×23 を 5 で割った余りは?(17≡2、23≡3 (mod 5) を使ってよい)

Q2. 4 で割って 3 余る数(3, 7, 11, …)が、2つの平方数の和にならない理由は?

Q3. mod p の計算だけでは、フェルマーの最終定理を証明しきれない理由は?

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