STAGE 3
こわれた素因数分解
素数の指数・複素数での因数分解・クンマー
🎯 ミッション
1の p 乗根 ζ を使って xᵖ+yᵖ を因数分解するラメのアイデアと、その証明が失敗した理由(素因数分解がただ1通りとは限らない)を、6=2×3=(1+√−5)(1−√−5) の例とノルムの計算で説明できるようになろう。
未達成

ねこ博士
前のステージで、残る課題は指数が奇数の素数 p の場合だけになった。18〜19世紀の数学者は、これを1つずつ片づけていった。1770年ごろにオイラーが n=3 を、1825年にディリクレとルジャンドルが n=5 を、1839年にラメが n=7 を証明した。フランスのソフィー・ジェルマンは、x, y, z がどれも p で割り切れないという特別な場合を、たくさんの素数についてまとめて片づけた。

うさ美
3, 5, 7 と進むのに、何十年もかかっているんですね。でも、素数は無限にあるので、1つずつでは終わりません。

ねこ博士
そこで 1847年3月、ラメがパリの科学アカデミーで「すべての素数 p について証明できた」と発表した。決め手は、きみが学んだ複素数だ。p を素数として、長さが1で、角度が 360°/p の複素数を ζ(ゼータ)と書く。この数を p 回掛けるとどうなるかな?

うさ美
『本当はおもしろい複素数の世界』で、複素数の掛け算は「長さどうしを掛けて、角度どうしを足す」ことだと学びました。ζ を p 回掛けると、長さは 1 のまま、角度は 360°/p を p 回足して 360°。ちょうど1周して、実数の 1 に戻ります。ζᵖ=1 です。

ねこ博士
そう。ζ², ζ³, … も、p 乗すると角度が 360° の整数倍になるから、やはり 1 になる。1, ζ, ζ², …, ζp−1 の p 個の数は、単位円の上に、正 p 角形の頂点として等間隔に並ぶ。これらを 1 の p 乗根と呼ぶ。そして、次の因数分解が成り立つ。
p=
1 の p 乗根。長さ1・角度 360°/p の複素数 ζ と、その累乗 ζ², ζ³, … は単位円の上に正 p 角形の頂点として並び、どれも p 乗すると 1 になる
p が奇数の素数のとき:
xᵖ+yᵖ=(x+y)(x+ζy)(x+ζ²y)…(x+ζp−1y)
xᵖ+yᵖ=(x+y)(x+ζy)(x+ζ²y)…(x+ζp−1y)

うさ美
本当に成り立つのか、p=3 で確かめたいです。ζ は角度 120° の点ですよね。

ねこ博士
p=3 の ζ は、よく ω(オメガ)と書く。座標で言うと ω=−1/2+(√3/2)i、ω² は角度 240° の点で ω²=−1/2−(√3/2)i だ。

うさ美
右辺の後ろ2つを先に掛けます。(x+ωy)(x+ω²y)=x²+(ω+ω²)xy+ω³y²。ω³=1 で、ω+ω²=(−1/2−1/2)+(√3/2−√3/2)i=−1 なので、
(x+ωy)(x+ω²y)=x²−xy+y²。
残りの (x+y) を掛けると、(x+y)(x²−xy+y²)=x³−x²y+xy²+x²y−xy²+y³=x³+y³。本当に成り立ちました。i が消えて、普通の式になるんですね。
(x+ωy)(x+ω²y)=x²−xy+y²。
残りの (x+y) を掛けると、(x+y)(x²−xy+y²)=x³−x²y+xy²+x²y−xy²+y³=x³+y³。本当に成り立ちました。i が消えて、普通の式になるんですね。

ねこ博士
これで x³+y³=z³ は (x+y)(x+ωy)(x+ω²y)=z³ と、掛け算=3乗の形に書ける。ラメの作戦は、STAGE2 の道具をここで使うことだった。「互いに素な数の積が平方数なら、それぞれ平方数」の3乗版、つまり「互いに素な数の積が p 乗の数なら、それぞれ p 乗の数」を使って、各かっこが p 乗の数だと言い、そこから矛盾を導くというものだ。

うさ美
STAGE2 の道具は、「自然数は素数の掛け算にただ1通りに分解できる」ことを使っていました。a+bω のような、i の入った数でも、素因数分解はただ1通りに決まるんですか?

ねこ博士
まさにその点を、同じ日の会場でリウヴィルという数学者が指摘した。ラメの証明は、新しい数の世界でも素因数分解がただ1通りに決まることを、確かめずに使っていたんだ。そして数か月後、ドイツのクンマーから知らせが届く。「その性質は成り立たない。p=23 のとき、分解の仕方が1通りに決まらない例を、私は3年前に見つけている」。ラメの証明はここで崩れた。

うさ美
ただ1通りに決まらない、というのは、どういう状態なんですか? 自然数では想像がつきません。

ねこ博士
p=23 の例は大きすぎるから、もっと小さな例で見よう。a と b を整数として、a+b√−5 の形の数だけを考える世界だ。√−5 は 2乗すると −5 になる数で、√5 i のこと。この世界で 6 を分解してごらん。普通に 6=2×3 だけれど、(1+√−5) と (1−√−5) を掛けると?

うさ美
(1+√5 i)(1−√5 i)=1−(√5 i)²=1−5i²=1+5=6。
6=2×3=(1+√−5)(1−√−5)。分け方が2通りあります。……でも、自然数でも 12=3×4=2×6 のように、分け方が途中なだけなら何通りもあります。4=2×2 と最後まで分ければ、どちらも 2×2×3 になります。
6=2×3=(1+√−5)(1−√−5)。分け方が2通りあります。……でも、自然数でも 12=3×4=2×6 のように、分け方が途中なだけなら何通りもあります。4=2×2 と最後まで分ければ、どちらも 2×2×3 になります。

ねこ博士
いいところに気づいたね。だから、2 も 3 も 1±√−5 も、この世界でこれ以上分けられないことを確かめる必要がある。そのための道具がノルムだ。a+b√−5 のノルムを、N(a+b√−5)=a²+5b² と決める。複素数 a+√5 b i を矢印と見たときの、長さの2乗だよ。

うさ美
長さの2乗なら、三平方の定理で a²+(√5 b)²=a²+5b² ですね。複素数を掛けると長さどうしが掛け算になるので、長さの2乗も掛け算になります。つまり N(zw)=N(z)×N(w)。

ねこ博士
そう。これで「分けられるか」を、普通の整数の問題に直せる。2 を2つの数 z, w の積に分けたとしよう。ただし、どちらも ±1 ではないとする(±1 を掛けるのは分けたうちに入らない)。ノルムで考えると?

うさ美
N(2)=4 なので、N(z)×N(w)=4。z も w も ±1 ではないので、ノルムは 1 ではありません(a²+5b²=1 になるのは a=±1、b=0 だけです)。だから N(z)=N(w)=2。でも、a²+5b²=2 になる整数は……b が 0 なら a²=2 で整数にならず、b が 0 でなければ 5b² だけで 5 以上です。ありません。だから 2 は分けられません。

ねこ博士
同じことを 3 と 1+√−5 でもやってごらん。

うさ美
N(3)=9 なので、分けるにはノルム 3 の数が要りますが、a²+5b²=3 も同じ理由で解がありません。N(1+√−5)=1+5=6 なので、分けるにはノルム 2 かノルム 3 の数が要りますが、どちらもありません。1−√−5 も同じです。4つとも、これ以上分けられない数です。しかも、2 のノルムは 4、1±√−5 のノルムは 6 なので、片方がもう片方に ±1 を掛けただけの数でもありません。6 は、本当に2通りに分解できてしまうんですね。
ノルムの地図。a+b√−5 の数を、横 a・縦 b√5 の点として並べた(縦の間隔は √5≈2.24)。ノルム k を選ぶと、原点からの距離が √k の円を描き、その円の上にある数(ノルムがちょうど k の数)を示す。k=2 や k=3 の円の上には点が1つもない。k=9 では、3 のほかに 2±√−5 も乗っていて、9=3×3=(2+√−5)(2−√−5) という別の2通りの分解も見つかる

うさ美
素因数分解がただ1通りでなくなると、STAGE2 の道具も使えなくなるんですね。積が p 乗の数でも、それぞれが p 乗の数だとは言えなくなります。クンマーは、そこであきらめたんですか?

ねこ博士
クンマーは逆に、この世界を修理した。分けられないはずの数を、さらに細かく分ける「理想数」という見えない部品を考え出して、その部品のレベルでは分解がまたただ1通りになるようにしたんだ。たとえば 6 の場合、2, 3, 1±√−5 はどれも理想数の2個の積になっていて、2通りに見えた分解は、同じ4つの部品の組み合わせ方の違いにすぎない。この修理のおかげで、クンマーは正則素数と呼ばれる種類の素数すべてについて、フェルマーの最終定理を証明した。100 より小さい素数では、37, 59, 67 を除くすべてが正則素数だ。

うさ美
では、37, 59, 67 のような正則でない素数が残るんですね。正則でない素数は、いくつあるんですか?

ねこ博士
無限にあることが分かっている。だからクンマーの方法でも、全部の素数を片づけることはできなかった。その後、正則でない素数を1つずつ処理する工夫が重ねられ、コンピュータの助けを借りて、1993年には 400万 までのすべての素数で確かめられた。それでも、無限の残りには手が届かない。

うさ美
複素数を使って、新しい数の世界まで作ったのに、それでも届かなかったんですね。

ねこ博士
けれど、無駄にはならなかった。クンマーの理想数は、のちに「イデアル」と名前を変えて、代数的整数論という大きな分野の土台になった。最終的な証明は、まったく別の方向からやってくる。その方向へ進むために、次のステージでは、数を「割った余り」だけで計算する時計の算術を学ぼう。後半の旅は、すべてこの言葉で書かれているんだ。
【このステージの成果】
奇数の素数の指数は、オイラー(n=3)、ディリクレとルジャンドル(n=5)、ラメ(n=7)らが1つずつ証明した
1 の p 乗根:長さ1・角度 360°/p の複素数 ζ。ζᵖ=1、1, ζ, …, ζp−1 は正 p 角形の頂点
xᵖ+yᵖ=(x+y)(x+ζy)…(x+ζp−1y)。p=3 では (x+ωy)(x+ω²y)=x²−xy+y²
ラメ(1847年)は「積が p 乗なら各因数も p 乗」を使ったが、新しい数の世界では素因数分解がただ1通りとは限らない
ノルム N(a+b√−5)=a²+5b²、N(zw)=N(z)N(w)。6=2×3=(1+√−5)(1−√−5) の4つはどれも分けられない
クンマーは理想数で分解を修理し、正則素数(100未満では 37, 59, 67 以外)について証明。全部の素数には届かなかった
確認クイズ
Q1. 長さ1・角度 360°/p の複素数 ζ を p 回掛けると?
正解! 掛け算では長さどうしを掛け、角度どうしを足す。長さは 1 のまま、角度は 360° になってちょうど1周し、1 に戻る。
Q2. 6=2×3=(1+√−5)(1−√−5) という例が示していることは?
正解! ノルムを使うと、2, 3, 1±√−5 はどれもこれ以上分けられない数だと分かる。それでも 6 は2通りに分解できる。ラメの証明が見落としたのは、この現象だった。
Q3. 2+√−5 のノルム N(2+√−5) は?
正解! N(a+b√−5)=a²+5b² なので 4+5=9。3 のノルムも 9 で、実は 9=3×3=(2+√−5)(2−√−5) とも分解できる。