STAGE 2
どこまでも小さくなる解
無限降下法で n=4 を証明する
🎯 ミッション
「解があれば、もっと小さい解が作れる」という無限降下法の考え方を理解し、x⁴+y⁴=z² に自然数の解がないことを、直角三角形の公式を2回使って証明しよう。
未達成

ねこ博士
STAGE1 では、整数の直角三角形がすべて (n²−m², 2mn, n²+m²) の形で作れることを見たね。今日は、その公式を道具にして、n=4 の場合を証明する。フェルマーが自分で証明を書き残したのは、じつはこの場合だけなんだ。しかも彼は、少し強いことを示している。x⁴+y⁴=z² をみたす自然数 x, y, z はない、というものだ。

うさ美
右辺が z⁴ ではなく z² なんですね。……もし x⁴+y⁴=z⁴ に解があったら、z⁴=(z²)² だから、w=z² とおくと x⁴+y⁴=w² の解になります。だから「x⁴+y⁴=z² に解がない」が言えれば、「x⁴+y⁴=z⁴ にも解がない」も言える、ということですか?

ねこ博士
その通り。強いほうを証明すれば、弱いほうはおまけでついてくる。証明には2つの考え方を使う。1つ目は背理法だ。「解はない」と言いたいときに、わざと「解がある」と仮定して話を進める。そこから、どう考えてもありえないこと(矛盾)が出てきたら、最初の仮定がまちがっていた、つまり「解はない」と結論できる。

うさ美
わざと逆を仮定するんですね。2つ目は何ですか?

ねこ博士
2つ目が、フェルマーが無限降下法と名づけた方法だ。こういう筋書きになる。「もし解 (x, y, z) が1つあったら、それを材料にして、z がもっと小さい別の解が必ず作れる」。これが証明できたとしよう。すると何が起きるかな?

うさ美
解が1つあれば、もっと小さい解ができて、その解からさらに小さい解ができて……どこまでも続きます。z は自然数なので、z₁>z₂>z₃>… と小さくなり続けても、1 より下には行けません。自然数が無限に小さくなり続けることはできないので、矛盾です。だから最初の「解がある」がまちがっていた、ということですか?
無限降下法。解が1つあれば、z がより小さい解を作る「降下の手順」を何度でも使える。けれど自然数には底があるので、無限に下り続けることはできない。だから最初の解は存在しない

ねこ博士
そう。あとは「もっと小さい解を作る手順」を実際に組み立てればいい。そのために道具を2つ用意しよう。1つ目は言葉だ。2つの自然数が、1 以外に共通の約数をもたないとき、互いに素という。たとえば 8 と 15 は互いに素、6 と 15 は 3 で割れるから互いに素ではない。STAGE1 の公式は、互いに素まで気にして言い直すと、こうなる。
a²+b²=c² で、a と b が互いに素なら、a と b のどちらか一方だけが偶数
偶数のほうを b とすると、互いに素で、片方が偶数・片方が奇数の自然数 m, n(n>m)を使って
a=n²−m²、b=2mn、c=n²+m² と書ける
a=n²−m²、b=2mn、c=n²+m² と書ける

うさ美
後半は STAGE1 の公式で、t=m/n を約分した分数にしておくということですね。前半の「どちらか一方だけが偶数」はなぜですか? 両方偶数なら 2 が共通の約数になるので、互いに素ではありません。でも、両方奇数の場合は……?

ねこ博士
奇数は 2k+1 と書けるね。その2乗を展開して、4 で割った余りを調べてごらん。

うさ美
(2k+1)²=4k²+4k+1 なので、4 で割ると 1 余ります。両方奇数なら a²+b² は 4 で割って 2 余る数です。一方、a²+b² は偶数なので c も偶数で、c=2j なら c²=4j² は 4 で割り切れます。4 で割って 2 余る数と、4 で割り切れる数が等しいはずはないので、両方奇数にはなれません。

ねこ博士
そう。残りの細かい確認(公式の m, n が互いに素で、片方が偶数になること)は、同じような約数の議論でできるから省こう。2つ目の道具は、素因数分解を使った事実だ。自然数は、素数の掛け算にただ1通りに分解できる。12=2×2×3 のようにね。では、平方数(ある自然数の2乗)を素因数分解すると、どんな特徴があるかな?

うさ美
k² は k×k だから、k の素因数分解を2回並べたものになります。たとえば 12²=(2×2×3)×(2×2×3) で、2 が4個、3 が2個。どの素数も偶数個ずつ現れます。

ねこ博士
そこから、次のことが言える。互いに素な自然数 p と q を掛けて平方数になったら、p も q もそれぞれ平方数。理由を説明できるかな?

うさ美
p×q は平方数なので、素因数分解すると、どの素数も偶数個ずつです。p と q は互いに素なので、共通の素数をもちません。だから、ある素数は p か q のどちらか一方にしか入っていなくて、その素数の偶数個は全部その片方に入っています。すると p も q も、どの素数も偶数個ずつの数になるので、どちらも平方数です。3つの数でも、どの2つも互いに素なら同じことが言えます。

ねこ博士
これで道具がそろった。いよいよ降下の手順だ。x⁴+y⁴=z² をみたす自然数があると仮定する。まず、x と y に共通の素因数 d があったら、両辺を d⁴ で割って小さい解に取りかえられるから、はじめから x と y は互いに素としてよい。式を (x²)²+(y²)²=z² と書き直すと、何に見えるかな?

うさ美
3辺が x², y², z の直角三角形です。x² と y² も互いに素なので、さっきの公式が使えます。どちらか一方だけが偶数なので、y² のほうを偶数とすると、
x²=n²−m²、y²=2mn、z=n²+m²
と書けます(m, n は互いに素で、片方が偶数)。
x²=n²−m²、y²=2mn、z=n²+m²
と書けます(m, n は互いに素で、片方が偶数)。

ねこ博士
1つ目の式 x²=n²−m² を、移項してごらん。

うさ美
x²+m²=n²。……また直角三角形です! 3辺が x, m, n の。

ねこ博士
そう。ここで公式をもう一度使う。m と n は互いに素だから、x と m も互いに素だ。どちらが偶数かを決めるために、x の偶奇を考えよう。

うさ美
y² が偶数で x と y は互いに素なので、x は奇数です。x²+m²=n² で、x と m のどちらか一方だけが偶数なので、m が偶数です。公式から、互いに素な r, s を使って
x=s²−r²、m=2rs、n=s²+r²
と書けます。
x=s²−r²、m=2rs、n=s²+r²
と書けます。

ねこ博士
材料がそろった。y²=2mn に、m=2rs と n=s²+r² を入れてごらん。

うさ美
y²=2×2rs×(r²+s²)=4rs(r²+s²) です。y² が 4 の倍数なので、y は偶数。両辺を 4 で割ると (y/2)²=r × s × (r²+s²)。左辺は平方数です。

ねこ博士
右辺の3つの数 r, s, r²+s² は、どの2つも互いに素なんだ。r と s は互いに素。r²+s² は n のことで、n は m=2rs と互いに素だったから、r とも s とも共通の約数をもたない。さあ、2つ目の道具が使えるね。

うさ美
互いに素な3つの数を掛けて平方数になったので、3つともそれぞれ平方数です。r=u²、s=v²、r²+s²=w² と書けます。r²+s²=w² に入れると、(u²)²+(v²)²=w²、つまり
u⁴+v⁴=w²。
最初と同じ形の式の、新しい解 (u, v, w) が出てきました!
u⁴+v⁴=w²。
最初と同じ形の式の、新しい解 (u, v, w) が出てきました!

ねこ博士
最後に大きさを比べよう。新しい解の w は、元の解の z と比べてどうかな?

うさ美
w は自然数なので w≦w² です。w²=r²+s²=n で、n≦n²<n²+m²=z。だから w<z。新しい解は、元の解より必ず小さくなります。これで「解が1つあれば、もっと小さい解が作れる」が言えたので、無限降下法で、x⁴+y⁴=z² に自然数の解はありません。
仮定:x⁴+y⁴=z²(x, y は互いに素)
(x²)²+(y²)²=z² → x²=n²−m²、y²=2mn、z=n²+m²
x²+m²=n² → x=s²−r²、m=2rs、n=s²+r²
(y/2)²=r·s·(r²+s²)、3つは互いに素 → r=u²、s=v²、r²+s²=w²
u⁴+v⁴=w² で w≦n<z。より小さい解ができる → 無限降下 → 矛盾
x⁴+y⁴ が平方数になる組を探すツール。x≦y の組をすべて調べ、x⁴+y⁴ がちょうど平方数になる組を数える(巨大な数も BigInt で正確に計算する)。証明のとおり、ちょうど平方数になる組は1つも見つからない

うさ美
n=4 が言えたら、n=8 もすぐです。x⁸=(x²)⁴ だから、もし x⁸+y⁸=z⁸ に解があったら、(x², y², z²) が n=4 の解になってしまいます。n=12 も n=400 も、4 の倍数なら全部同じです。

ねこ博士
その通り。n が 4 の倍数なら、フェルマーの最終定理は成り立つ。同じ考え方で、n が 6 なら x⁶=(x²)³ だから n=3 に帰着する。一般に、n が奇数の素数 p で割り切れるなら、n=p の場合に帰着できる。

うさ美
3 以上の数は、2 を何回か掛けた数なら 4, 8, 16, … で 4 の倍数ですし、そうでなければ奇数の素因数をもちます。ということは、残っているのは n が奇数の素数(3, 5, 7, 11, …)の場合だけ、ということですか?

ねこ博士
そう。ところが、素数は無限にある。1つずつ片づけていては終わらない。次のステージでは、19世紀の数学者たちが、素数の指数にまとめて挑んだ話をしよう。ここで、きみが学んだ複素数が登場する。
【このステージの成果】
背理法:「解がある」と仮定して矛盾を導き、「解はない」と結論する
無限降下法:解が1つあれば、より小さい解が必ず作れる → 自然数は無限に小さくなれない → 解はない
互いに素=1 以外に共通の約数をもたない。平方数はどの素数も偶数個ずつ現れる → 互いに素な数の積が平方数なら、それぞれ平方数
x⁴+y⁴=z² に直角三角形の公式を2回使うと、新しい解 u⁴+v⁴=w²(w<z)ができる → n=4 は解なし
n が 4 の倍数なら n=4 に、奇数の素数 p で割り切れるなら n=p に帰着。残るのは奇数の素数の指数だけ
確認クイズ
Q1. 無限降下法の筋書きとして正しいものは?
正解! 「より小さい解を作る手順」を何度でも使えると、自然数が無限に小さくなり続けることになってしまう。この矛盾から、最初の解がなかったと結論する。
Q2. 互いに素な自然数 p, q の積 p×q が平方数のとき、言えることは?
正解! 平方数はどの素数も偶数個ずつ含む。p と q は共通の素数をもたないので、それぞれの素数の偶数個がまるごと p か q の片方に入り、どちらも平方数になる。
Q3. n=4 の場合が証明できたことで、フェルマーの最終定理が成り立つと分かる n は?
正解! n=4k なら xⁿ=(xᵏ)⁴ なので、解があれば n=4 の解ができてしまう。残るのは奇数の素数の指数で、それが次のステージの主題。